全小学校へのプロジェクター導入は袋井市の英断。
先生方の活用法にも工夫が見られます。

日本教育情報化振興会会長/ICTconnect21会長/東京工業大学名誉教授
赤堀 侃司 氏

日本教育情報化振興会会長/ICTconnect21会長/東京工業大学名誉教授 赤堀 侃司 氏

教育現場へのICT機器導入については、文科省の政策を受けて各自治体が段階的に整備を進めていますが、現状、パソコン教室や有線によるインターネット環境などは整ってきているものの、普通教室に1台の設置が目標とされている電子黒板などについては、満足できる整備状況ではありません。

ICTを活用する上で、電子黒板機能活用プロジェクターはとても重要。なぜなら、黒板は教育の基礎で、最低限必要なものだからです。黒板があって、文字が書けるから、子どもたちはノートに同じことが書ける。ただ、黒板に書いた文字だけだと、どうしても理解できないことが出てきます。脳には、文字や計算などを処理する左脳と、イメージや音楽などを処理する右脳があり、両方を使って学習することが必要です。「古池や蛙飛び込む水の音」という俳句を学ぶとしても、文字だけでは想像しづらい。蛙が飛び込んで水の音がして、なぜそれが素晴らしい俳句になるのか。イメージがあれば、文字の意味と結びつき、理解は深まります。そこで写真、できれば映像が必要となり、その映像を大きく映し出すプロジェクターが必要となるわけです。

では、なぜそのように大切な電子黒板の整備が進んでいないのかというと、理由の1つはやはり予算。各自治体、限りある予算内で、様々な問題を解決しなければなりません。耐震補強など喫緊の課題もあります。予算をどう割り振っていくかは、各自治体で悩まれていることだろうと思います。

そんな中、静岡県袋井市では、平成28年度に、全小学校の全普通教室にカシオのプロジェクターとインタラクティブホワイトボードを導入しました。コストを考えると、この取り組みは大変な英断。全小学校に同じ機器を導入したことで、先生にとっても、子どもにとっても教育の平等性が保たれます。転勤や転校をしたとしても、同じ質の授業ができたり受けたりできるわけです。研修や公開授業を通して得た活用法も、先生はすぐに実践することができます。袋井市の取り組みは非常に高く評価していいと思います。

浅羽東小学校のプロジェクター活用例に焦点を移しますと、黒板の半分にスクリーンを設置しているところがいいですね。さらに、スクリーンにそのまま書き込みをしている。直接書き込みをするというのはとても重要なことです。アメリカの学者が書いたアノテーション研究という論文によると、重要なポイントに下線を引いたり丸をつけたりすることで、記憶に残りやすくなるという結果が出ています。先生がスクリーンに線を引いたり丸をつけたり、場合によっては板書する。子どもはそれを見て、教科書やノートに同じように書き込みをする。その行為は、100回言葉で伝えるよりも理解を深めるのです。昔、教科書は読むもの、ノートは書くものと役割を分けていた時代もありましたが、今は違います。重要なところに自由に書き込むことで、教材、教科書、黒板、ノートをリンクさせるべきなのです。そのつなげる役目を、プロジェクターやスクリーンが担ってくれています。とても素晴らしいことですね。

ICTは授業のあり方を大きく変える可能性を秘めています。プロジェクターを活用した質の高い授業が行える環境が早く整うように、今後も働きかけていきたいと考えております。

黒板の半分のスペースにスクリーンを設置。板書とスクリーンの内容がつながり、より記憶に残る授業が可能に。
スクリーンに直接下線や丸をつけていく。子どもたちは手元の教科書に同じように書き込み、理解を深めることができる。