コマツ大阪工場 様

豊かな発想力とひらめきで改善に取り組む「現場力」本領発揮

2021年6月9日掲載

初期画面にコマツのロゴを入れた「DT-X400」

創業100周年を迎えるコマツ
端末に縛られない柔軟なシステム構築

油圧ショベルやホイールローダー、ブルドーザー、ダンプトラック等、多彩な建設・鉱山機械および車両のラインナップで世界展開するコマツ((株)小松製作所)が、本年5月13日に創立100周年を迎える。同社の強みは社員が常に各自の業務の中で自律的かつ継続的に様々な改善を繰り返し続けてきた「現場力」にあり、あくなき改善の積み重ねが今日のコマツの礎を築いてきたと言えよう。本誌では、西日本における建設機械の主要生産拠点である同社の大阪工場(大阪府枚方市、写真①)で新たな改善事例がまた1つ実現したことを聞きつけ、その取り組みを主導したキーマンを取材する機会を得た。今回はその取り組みについてレポートしていこう。

コマツの組立ラインの前工程では、建設機械の組立に使用される様々な部材を仕分けしてロケーション管理しながら、組立ラインに出庫していく作業が行われている。庫内作業の特徴は在庫保管型ではなく通過型オペレーションのため、見かけは在庫保管型よりも工程数が少ないためシンプルに見えるが、オペレーション次第で在庫保管型よりも手間が掛かり、仕分け間違いのリスクもあり、かえって大きな作業ロスに繋がるリスクがある。そのため、練り上げた工程設計の上、決めた工数、限られた面積の中でいかに効率よくオペレーションを流すか、常に1つの手扱いに最大限の付加価値を付けることを心がけている。

大阪工場では、組立ラインの前工程で自社開発のWMSソフトとハンディターミナルを用いた現品管理が行われており、 2007年に導入された。しかし、導入後12年以上を経過し、世の中のサーバメンテナンスやアプリケーション、ハンディターミナル等の機能の発達と新規機能開発よる工数改善が見込めたことから、コマツ社内ではシステムの老朽更新を進める必要性が議論されていたという。その取り組みを主導したのが、今回のキーマンであるコマツ大阪工場 生産技術部 物流グループの奥西亮太氏だ。

「当時使用していたハンディターミナルが12年を経て端末メーカー側も生産やサポートを終了していた機種でしたので、代替品を検討していました。ところが、その端末メーカーの後継機モデルは工場で使用するにはオーバースペックでした。求めるのはシンプルな操作性と必要最低限の機能のため、他社製も含めてハンディターミナルの機能と価格の検討を始めたわけです」(奥西氏)と語る。

そこでコマツは2020年3月にカシオ計算機(株)のAndroid OS搭載のラグドスマートハンディターミナル「DT-X400」を導入。これに搭載される「現品管理システム」と「棚卸しシステム」の2つのソフトも自社開発してリプレイスすることにより、システムの老朽更新を実施。カシオのソリューションを導入する決め手になったのは、端末に縛られず柔軟性を持たせたシステムの再構築が可能な点にある。

おりしも業務端末業界では、かつて標準OSだったWindows CEのサポートを2018年にマイクロソフト社が終了する等、世界的に業務端末のOS がWindows 系からAndroid系への転換期を迎えていた。それを背景にWindows系アプリは激減。奥西氏が従来使用していたハンディターミナルで最も課題に感じた点は、「プログラム言語がWindows系OSで構成されていたため、Windows系アプリが使える端末にしか乗り換えができない端末縛りの点に加えて、業務の特性に応じてタブレット等との連携や併用も目指していたものの、既存のソフトでは対応できない」(奥西氏)等、端末の制約に縛られてしまうため、柔軟なシステム構築を阻む点がデメリットになっていた。

そこでカシオから推奨されたのが、(株)オープンストリーム製のマルチOS/マルチデバイス対応アプリ開発ツール「Biz/Browser」だ。「Biz/Browser」では、 Android端末だけでなく、iPadのiOSやWindowsCE等様々なOSに対応する端末ソフトの開発が可能。これを用いれば、幅広いアプリの利用が可能になる。1台の端末で、現品管理から棚卸、ラベル発行等、業務の特性に応じてタブレットと連携、併用しながら対応できるようにしたという。

①コマツ大阪工場
奥西亮太氏(コマツ)

仕分けとロケーション管理を統合、「ランプピッキングシステム」本稼働

こうしたシステムの老朽更新を進めた奥西氏の狙いは無論、現場改善にある。これまでの仕分け後のロケーション管理では、新たに導入された現品管理システムソフトを用いて、台車の看板に貼ってあるバーコードと部材の現品票のバーコードをそれぞれスキャンして紐づけることで、どの台車に何を入れたかという物品管理や在庫所在管理が成立していた。ところが、その前工程となる仕分けでは、部材についている現品票の情報と台車に貼られた看板の情報を目視で照合していた。つまり、仕分けからロケーション管理への過程では、実は伝票の目視チェックが介在していたわけだ。目視の作業はやはりミスの発生原因と生産能力のバラツキが出やすい要因とならざるを得ないため、ロケーション管理の段階で検品作業を行い、修正していたという。

「私が思いついたのは、ハンディターミナルを用いていたロケーション管理での検品作業を、前工程の仕分け段階で行うことができれば、ロケーション管理の工程を省き、仕分けとロケーション管理を1つの工程にまとめることができるのでは、という発想でした。2つの工程を統合すれば、必然的に目視確認が不要となり、効率も上がる等たくさんのメリットがありますから」(奥西氏)と語る。こうした着想を得て、奥西氏が開発を主導した無線デジタルピッキングシステム(DPS)「ランプピッキングシステム」を完成に漕ぎ着け、2021年4月から本稼働を開始している。

「ランプピッキングシステム」のシステム構成を図表1に示す。使用するデバイスは、カシオの「DT-X400」端末と(株)タクテック製の無線STOCタグの無線LAN通信によるネットワークを構築し、部材の現品票のバーコードをスキャンすると(写真②)、「ランプピッキングシステム」ソフトのアプリ画面が自動的に切り替わり、伝票の発行番号を認識。アプリの確定ボタンを押せば、マグネット式で貼られたSTOCタグが点灯(写真③)した特定の棚番を持つラックや台車に部材を入れ、仕分けが完了し、そのままロケーション管理となる仕組みを実現。つまり、目視等の確認をしなくても、バーコードの読み取りとアプリのボタンを押すだけで作業が完了する、誰でもすぐに習熟度が格段に上がるシンプルなシステム構成にしている。

奥西氏によれば「同システムのソフトウェア開発を担当した(株)アイエムシステムは、要望の実現に留まらず、操作性の向上や、冒頭の写真のように、端末の初期画面にコマツのロゴや小さな建機の画像を表示する等、工夫を凝らしてくれた」という。

図表1 「ランプピッキングシステム」の概要
  • コマツ提供資料より月刊マテリアルフロー作成
②伝票のバーコードをスキャン
③点灯するSTOCタグ

補給部品センタの改善が原点
48間口のバッチ処理を着想

実は今回、奥西氏が「ランプピッキングシステム」を発想した原点には、「物流を組立ラインのように安定して流したい」(奥西氏)とのポリシーのもと、社内の業務改善に取り組んだ経験がある。大阪工場には全国に100か所以上の販売網を持つコマツカスタマーサポート(株)を通じて、顧客向けにアフターケアの補修部品を出荷する関西補給センタ(写真④)があり、従来より同センタから大量な小物部品が各販売店へケース単位で一気に送られていという。このため、本来営業活動や修理サポートに専念すべき販売店側に仕分けの付帯作業が発生し、長年の懸案になっていたことから、補給センタ側で仕分け作業を請け負えないか検討されたという。その改善活動に携わったのが、当時生産部という部署に配属されていた奥西氏だった。

同氏がまず着目したのは、工程全体の作業負荷の課題だ。補給センタでは、補修部品がロケーション保管されており、従来はロケーションピッキングが行われていた。ロケーションピッキングのメリットは同じ棚から複数回同時に部品を出せるので、動線的な効果はある一方で、後工程の作業者に手待ちが発生するリスクもある。また、販売店の営業マンが日中の営業活動を終え、夜の時間帯にオーダーを発注するため、翌朝のオーダーが最も多い傾向にあるが、朝いちのオーダーをまとめて仕分けしたとしても、全ロケーションからの部品が揃っていなければ、すぐに梱包して出荷できないリスクも勘案した。

そこで奥西氏は、時間帯によってオーダーの異なる仕分け作業を平準化し、一定の作業スピードをキープしながら仕分けや梱包の作業が継続的に流れるには、1日8時間の労働時間内で仕分けに適した間口を分析し、48間口と導き出し、工程設計を練り上げた。そのアイディアを基に開発されたのが、物品仕分けシステム「プロジェクションアソートシステム(PAS)」だ(特許出願中、図表2)。 PASは写真⑤の通り、フレーム上部にプロジェクターを設置し、各仕分け容器の上のフレームへプロジェクターが照射する(写真⑥)ことで仕分けすべき該当容器を作業者に指し示し、仕分け作業が行われる。PASにはカシオの超短焦点プロジェクターが採用され、2018年に補給センタに実機導入されている。改善に向けたカシオとの二人三脚の関係性はここから始まったわけだ。

奥西氏の上司である大阪工場 生産技術部 担当部長 兼 物流グループグループ長の塚下佳孝氏はこう語る。「コマツには改善の文化が脈々と受け継がれていますから、皆率先して取り組んでいる中、誰かと同じことやっても面白くありません。彼は発想力が豊かなので、自分が発想したことはすぐに自力で動くので、企画さえ与えたら自分で考えて形にできる行動力は、やはりずば抜けていると思います。PASはコマツで初めての取り組みですから、ひらめきは本当に大事なのだなと私自身も改めて感心した事例です」とほほ笑む。コマツの強みは、「現場力」に加えて、協力企業や販売・サービスを担う代理店との強固な「パートナーシップ」にもあると言われている。奥西氏の当時の取り組みは、まさに「現場力」で培った豊かな発想が販売店の負担をなくし、「パートナーシップ」に貢献した好事例だったという。同氏の今後のさらなる改善の取り組みに期待したい。

図表2 PASの運用フロー
  • コマツ提供資料より月刊マテリアルフロー作成
④関西補給センタの様子
⑤プロジェクションアソートシステム
⑥プロジェクターが該当容器のプレートへ照射
塚下佳孝氏(コマツ)

「月刊マテリアルフロー2021年5月号」

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