ヤマタネシステムソリューションズ 様

ペーパーレス化と高速通信機能で小売業の棚卸業務に大変革。リアルタイムデータ連携でデータ集計を劇的に効率化。

2020年5月8日掲載

倉庫システム開発からスピンオフハンディレンタル事業

(株)ヤマタネシステムソリューションズは、1971年にヤマタネグループでの電算機共同利用を目的に発足し、山種証券(現SMBC日興証券)の業務をはじめシステムの自社開発を推進し、2018年にグループ内に2系統存在したシステム部門を統合する形で現社名に変更された、(株)ヤマタネ100%出資のグループ会社である。

同社事業は4本の柱に大別される。1つ目は、証券業務をはじめとする金融系システム開発で培った技術をコアとした汎用機OSの基盤部を開発する“メインフレーム技術支援”。2つめは、WEBシステム、販売管理システム、物流システム等の業種別アプリケーション開発を手掛ける“システム開発・構築”。3つ目は、提供したシステムそのものが円滑に運用継続できるよう支援する“システム運用・保守”である。

そして今回フォーカスするのは、同社のもう1つの主要事業となる“ハンディターミナルレンタルサービス”だ。これについて、同社営業部長の大石和生氏がその成り立ちをこう教えてくれた。

「元々当社は倉庫システムを手掛けており、ヤマタネ営業倉庫で顧客の荷物を預かり、管理し、入出荷していたのですが、その中の実務の1つに棚卸がありました。当時はまだ紙とペンで正の字を書いて集計していましたが、1988年にこれを省力化しようと、カシオのハンディターミナルを導入し、棚卸作業のシステム化を実現しました。その事例が記事になって外部に知られると、読者から『その仕組みを貸してくれないか?』との問い合わせがあり、それがこの事業のスタートのきっかけとなりました」

スタート当初はレンタルが主眼ではなく、システム構築が先で、市場ニーズがビジネスに結び付いた、というわけだ。折しも時代は値札にバーコードが付き始めた頃で、百貨店をはじめ小売業からの注目を浴び、複数社から採用されるようになった。こうなると、高価な専用機器を個社ごとに購入する負担は大きい。そこで機器はヤマタネ側が保有し、それを貸し出し回収するスタイルとし、結果的にレンタルサービスに発展したのだという。

多くの小売系の棚卸は1年に2~4回で、実施期間は数日と限定的なことから、何百台の機器を自社保有するのは経営上も効率が悪い。同社の着想と市場がピタリとマッチした格好だ。

「1機当たり20~30万円するハンディターミナルを、棚卸のためだけに保有するのは大変です。しかも当時の百貨店の棚卸は全館休業して全フロア全社員が一斉に取り掛かるスタイルですから、これを全国で行うと、一時に膨大な数の機器が必要となるため、レンタルの市場ニーズは一気に高まったようです」と当時の状況を教えてくれたのは、同社リソースサービス部ストックテイ君グループグループ長の神谷亮氏だ。

営業部長 大石和生氏
▲営業部長 大石和生氏
グループ長 神谷亮氏
▲グループ長 神谷亮氏

30年続いた業務に革命、IT-G400のリアルタイム連携機能

同サービスのレンタル機器は、カシオ製ハンディターミナルの導入を第1世代として変遷を重ね、今回注目するのが第4世代として採用されたハンディターミナルはカシオ製の「IT-G400」だ。だがその前に、これまでの世代の機能的な変遷について振り返ってみよう。

「実は最新のIT-G400の導入まで、この30年の間に、ハンディターミナルレンタルの機器作業フローには、本質的な変化はありませんでした」と、意外にも感じる事実を語ってくれたのは、同社営業部ストックテイ君営業グループグループ長の小川恵子氏だ。

「現在も多くが稼働中の第3世代までのハンディターミナルでは、ほとんどの顧客は通信機能を使用していませんでした。そのため実際のフローは、レンタル先の現場で棚卸作業が終了して機器が返却されてから、データを吸い上げ集計し、顧客にデータを納品する、というビジネススタイルで、その基本は30年間変わらなかったのです」

第3世代までの棚卸作業では現在でも、確認結果をレシートに印字し、それを貼り付ける作業が付随しているという。そうした状況から明確に進化した最新機器が、第4世代と位置付けられるカシオのIT-G400だ。“RUGGED SMART HANDY TERMINAL”を標榜し、Android OSの強みとの融合を謳う同機は、ペーパーレス化とリアルタイム情報連携を同社のレンタルソリューションに持ち込んだ。

IT-G400は、高速通信機能でデータをリアルタイム連携することにより、機器回収後にデータを吸い上げて集計する手間から解放されたばかりでなく、現場ユーザーがデータを誤消去してしまうリスクも軽減。効率化とリスク回避を同時に実現している。これは同社の長いレンタル事業の歴史の中でも革命的な変化だったようだ。

一方、各世代機器の機能面ではなく、ビジネスの規模感を見てみると、同社のレンタル事業は成長を続けており、大手百貨店を始めとする多くの小売業にユーザーを拡大している。1度に1社あたり数千台の規模でレンタルするケースも珍しくないため、第3世代のハンディターミナルは数年にわたって増機に増機を繰り返し、1万1,000台を保有するまでになっているという。

「“ニッパチ”という言葉がありますが、棚卸も2月と8月が年間のピークシーズンで、その前後を合わせた1-2-3月期と7-8-9月期にどうしても需要が集中します。このためマックスの数値に合わせると、1万台保有しなければ回らない状況になっていました」(大石氏)

第4世代のIT-G400は、現時点では1,100台を導入し、今後増機する計画だが、第3世代ほどの規模は必要ないという。何故か?

「従来機では、機器が返却されてから集計作業を開始するため時間がかかっていましたが、IT-G400は現場でリアルタイムにデータ共有できるので、格段にスピード化と効率化が図れ、以前ほどの膨大な台数を保有する必要がなくなったのです」(神谷氏)

棚卸向けハンディターミナルレンタル事業の展開と同期して、新規参入・拡大を果たしたビジネスが、棚卸代行サービスだ。ほとんどの場合、棚卸業務は1日で完了するとはいえ、代行サービスの場合は閉店後、翌日の開店までの夜間に、作業を完了できるというアドバンテージがある。そのため一時は同社も代行サービスに乗り出したのだった。ただし今後加速する人手不足の時代には、人材確保が必須となるこのビジネスは継続が難しいと判断、レンタルサービスに資源を集中させた。

営業グループ長 小川恵子氏
▲営業グループ長 小川恵子氏
日本橋三越本店 松井和博氏
▲日本橋三越本店 松井和博氏

機器返却後の集計業務が、棚卸と同時並行で可能に

このレンタルサービスの貸し出しから返却までの一連のフローは、どのようなものだろうか。

「まず発注をいただくと、納品するユーザー・店舗情報、レンタル台数、棚卸作業日・返却予定日といった情報をシステムに入力、その内容に基づいて出荷作業、作業日までに機器をお届けし、ユーザーは棚卸を実施してから機器を返却されますので、概ね4日間がワンタームになります」(小川氏)

機器のやりとりはすべて宅配便で、全国展開する小売チェーンなどのケースでは、一時にその全店舗へ配送手配をする必要がある。大規模なユーザーの場合、300から400か所という例も珍しくないそうだ。処理する量は膨大である。

では最新機器としてチョイスされたIT-G400を、そうした業務にマッチさせる革新的なソリューションは、どんな経緯で開発されたのだろうか?

「〈ペーパーレス化〉と〈データ集計迅速化〉という2大ニーズを実現するには、通信機能装備が必須になることは大前提でした。そのうえで、集計結果をデータ化するためのアプリケーションが必要ですが、これを個社ごとの専用とすれば、開発の負荷も現場の手間も膨大になります。そこで汎用性を備えたアプリケーションをベースに、個社向けにカスタマイズし、貸し出しのつど新たにダウンロード(DL)することで、容易にデータ通信できる方向で開発しました」と小川氏は説明する。

専用リーダライタがなければ一切の業務がスタートできなかった従来に比べ、格段の進化と言えそうだ。さらにアプリケーションのDLはWi-Fiを利用し、棚卸データのアップロード(UL)はWi-Fiルータを用いる手法と、SIMカードを挿入して4G通信を用いる2パターンを設定している。同時に使用している数十機からのデータが即クラウドに飛び、アマゾンのAWSを経由して、ヤマタネ側もユーザー側も瞬時に最新の情報を共有できるようになった(図表1)。

図表1 第4世代機サービスのイメージ
ヤマタネシステムソリューションズ提供資料より本誌作成
▲ヤマタネシステムソリューションズ提供資料より本誌作成

「30年の歴史の中で積み上げてきた、利便性向上のためのアイデアを具現化できました。かつては100社向けに100の専用プログラムを組んでいたのが、今は汎用的プログラムを1本化し、設定で変更可能にしたことで、2~3か月かかっていた開発が、2~3週間で可能になりました」(同)

第4世代機・IT-G400の導入ユーザーは今のところ数社だが、稼働後の評判は上々。データ同時共有の効果は使用している現場だけでなく、本社の管理スタッフも進捗状況を含めて確認できるため、修正指示に即時対応できる等、喜びの声も届いている。

現場の反応としては、2次元コードや多段コードの読み取り機能も歓迎された。百貨店の値札は2段バーコードがメインで、従来レーザースキャナで2度スキャンの必要があった。それが1回の動作でスキャンするデモの時は、驚きの声が上がったそうだ。

また同社は、長期間続いてきた業務フローの大変化にあたり、作業現場への周知や教育が重要であるとの観点から、紙のマニュアルに加えて動画マニュアルも作成。とかく業務フローの変更は現場から忌避されがちだが、変更の負荷を最小化させるための試みにも抜かりはないようだ。


レンタル前発送準備

ではいよいよ、IT-G400が稼働する現場に赴こう。始めにヤマタネシステムソリューションズ側の貸し出し現場で、受注処理以降のプロセスを見る。

まず受注処理で出力されたQRコードを読み取って、どこへ何台出荷との指示を確認。出荷する端末を特定する必要があるので、注文台数分の実機を用意する(写真②)。機番情報を基に端末を指定すると、システムから端末に指示が飛び、画面操作でDLが開始される。具体的には、まずエージェントアプリという基本的な情報を付与するアプリケーションが、続けて個社向けにカスタマイズされたアプリケーションの順でDLされる(写真③)。慣れた作業者は全機まとめてスマホを扱うように流れ作業で行うため、10台同時でも作業時間は数分で済む印象だ(写真④)。

処理を完了した機器は10台まで同梱可能な専用ケースにルータやACアダプタ等の周辺機器と共に格納され、顧客の元へ発送(写真⑤)。これが出荷前の作業フローで、返却後はDLと同じ仕組みでデータを回収するが、これはあくまでバックアップ用で、データ集計そのものはリアルタイム情報連携で並行して進む。従来の返却後のデータ回収では、専用リーダ機に最大5台までをセットして(写真⑥)の繰り返し作業が必要だったことを考えると、いかに全プロセスが効率化されたのかが伺い知れる。

②受注情報を確認し実機を準備
▲②受注情報を確認し実機を準備
③エージェントアプリをDL
▲③エージェントアプリをDL
④続けて顧客向けにカスタムされたアプリケーション
▲④続けて顧客向けにカスタムされたアプリケーション
⑤発送用ケースは5台×2段で計10台収納
▲⑤発送用ケースは5台×2段で計10台収納
⑥従来機は専用リーダ機で返却後に集計していた
▲⑥従来機は専用リーダ機で返却後に集計していた

レンタル先ユーザー現場

次に、レンタルされた先のユーザー側での棚卸業務の実施状況を見よう。編集部が訪れたのは(株)三越伊勢丹の日本橋三越本店だ。同店が業務にIT-G400を取り入れてから、すでに棚卸は2回行われたという。現場に足を運ぶ前に、同社総務・業務部業務担当スタッフマネージャーの松井和博氏に、ユーザーとしての手応えや評価を聞いてみた。

「現場の第一声は『コンパクトになったね』というものでした。機器本体が第3世代機に比べ軽量化された効果は大きかったようです。また紙ベースではなくリアルタイムデータ通信になったことで、手間暇も軽減されました。様々な情報をPCで管理できるようになったことで、アナログ世代の作業者には当初やや戸惑いも見られましたが、若いスマホ世代には全く無理なく受け入れられていますね」

松井氏は続ける。
「従来機だと、データに修正事項が発生した場合、情報を入力した機種しか対応できませんでしたが、IT-G400はどの端末でも対応可能です。時間的なロス削減も含めて、現場の使い勝手と生産性を大きく向上してくれましたね」

今回、実際に棚卸の様子を取材できたのは、地下のバックヤード。ラック内にズラリと並んだシューズの値札に、レンタルされたIT-G400のリーダ部を向けてスキャンすると、操作音と同時に瞬時に商品を認識(写真⑦、タイトル写真)。タブレットやPC等、離れた場所にある別機器でも同時に情報共有できていた(写真⑧)。

⑦棚卸スキャンの様子
▲⑦棚卸スキャンの様子
⑧タブレット(右)でも瞬時に情報共有
▲⑧タブレット(右)でも瞬時に情報共有

小売系商品の棚卸業務革新に最適な、ヤマタネシステムソリューションズのハンディターミナルレンタルサービス。今後はユーザーターゲットをさらに拡大し、IT-G400を活用した「物流事業者向け提案」も加速させていく計画という。同社の次の展開にも要注目だ。ヤマタネグループは創業100年を前に物流・食品・情報・不動産の4つの事業を次の100年に向けて進み続けている。各事業に関わるすべての「続く」を支えるために。

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